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高くても売れる「本物」で勝負
ウェットスーツ用素材で世界シェア60%。高級品に限れば100%に近い。
独自技術で高い保温性と着心地の良さを実現。プロの絶大な信用を得る。
世界初のこだわりと、世界に売り込む大胆な営業力が武器だ。
長時間、水中で作業を続けても寒さを感じない。
水の抵抗が少なく、疲れにくい。
そのうえ、着心地に優れている。
こんな願いを実現したウェットスーツ用の素材で
世界シェア60%を誇るのが山本化学工業だ。
プロのダイバーやトライアスロン選手が使う
業務用に限れば、世界シェアは
ほぼ100%と同社の独壇場になっている。
ウェットスーツ素材は合成ゴムに発泡剤を混ぜて、
熱で膨らませて作る。
生地内に独立した気泡が数多く存在することが特徴だ。
同社の素材は、気泡が独立して存在する割合が
93%と極めて高い。
一方、他社製品の場合、60%程度。
同じ厚さの生地でも、保温性は格段に異なる。
同社の素材が、プロから絶大な信頼を受けている理由の一つだ。
トライアスロンの記録2割短縮
さらに、1995年、同社は表面抵抗が極めて小さい素材を開発。
97年に販売を開始して以来、業界では革命的な発明と称賛され、
「ヤマモト」ブランドを不動のものにした。
表面抵抗は摩擦抵抗係数(cdf)という数値で表されるが、
同社のウェットスーツのcdf値は、0.032。
従来品のcdf値が4.0、人間の肌が2.0、氷が0.0であることから考えると、
いかに抵抗が小さいかが分かる。
実際、この製品の登場後、
トライアスロンの水泳の世界記録は2割ほど短縮された。
と同時に、着心地も大幅に向上した。
ゴム製のウェットスーツは締めつけ感が強く、それをいやがる人も多かった。
ところが、同社の素材は表面が柔らかで、着心地が良いと好評だ。
抵抗の小ささと相まって、疲労度は大幅に軽減された。
最近、同社は性能を維持したまま、
これまで限界とされてきた厚さ1.2mmから、0.5mmまで薄くすることに成功。
高齢者に人気がある水中歩行運動用のウェットスーツなど、
新たな市場の開拓にもつながっている。
世界史上に向けて独占的に供給するオンリーワン製品を開発したことで、
業績も好調に推移している。
単体では2002年2月期の売上高が15億5600万円、経常利益2000万円。
一見すると収益率が低いようにも思えるが、
子会社の販売も含めると売上高は36億円。経常利益は2億8000万円。
売上高経常利益率は7.8%に達する。
汎用品の価格競争で低収益にあえぐ素材産業にあって収益率は高い。
同社の設立は1964年。
山本社長の父親である山本敬一会長が、
先祖代々続いてきた山本化学研究所から分離独立し、
ウェットスーツ素材の生産に乗り出した。
本家とも言うべき、山本化学研究所は、
脱脂粉乳でボタンを作るという世界でも例をみない事業を手がけていた。
戦後は消しゴムを生産し、55年に今となっては懐かしい、
消しゴム着き鉛筆を世界で初めて開発。
山本化学工業の発展を築いた。
同社がウェットスーツの素材を事業化した60年代、
日本ではせいぜい映画の主人公が着ているのを見る程度で、
市場など存在しなかった。
そこで山本会長は外国語大学で学んだ語学力を駆使し、
欧米やオーストラリアなど、海外の企業に積極的に売り込んでいった。
海外の大味な製品と違って、きめ細やかな配慮がなされた
同社の素材は急速にシェアを拡大、80年頃には世界一となった。
86年には米国でのシェアが85%に達し、ダンピング提訴を受けたほどだ。
山本化学工業の強みは、顧客の存在的なニーズを発見し、
新たな素材を生み出す開発力にある。
しかし、それだけではない。
原料を製品に加工する生産技術の裏付けがあってこそ、開発力も生きてくる。
同社の場合、まず使っている原料が他社とは違う。
石油から作った合成ゴムを使うのが一般的だが、
同社は新潟県の黒姫山で取れる石灰石を
高温で熱して発生したガスから作った、特注の合成ゴムを使っている。
「他社のゴムが硬い飴だとすると、当社のゴムは水飴。
極端に粘度が低いのが特徴」と山本社長は説明する。
原料生産は、厳しい要求仕様を課したうえで、電気化学工業に委託している。
しかし、本当に大変なのは、この水飴のように繊細な原料を加工プロセス。
そのため同社の生産設備はすべてオーダーめーどの特注品だ。
普通のゴムメーカーの生産設備に比べて、
1ケタ高い精度で温度管理をしなければ品質を維持できない。
原料から生産設備まで、徹底したこだわりが、
他社より4割高い価格にもかかわらず、トップシェアであり続ける理由だ。
ただ、最近は東南アジアや中国で作った安価な素材の攻勢で、
普及品も含めた市場全体で見るとシェアが減少傾向にあることも事実。
それを打破するのが、同社がこれまで培った技術の新たな用途の開拓である。
欧米企業に大胆な売り込み
同社では、抵抗が極めて小さい「滑るゴム」を
航空機や自動車の緩衝材として使用するための研究を重ねてきた。
従来の緩衝材は縦の振動には強いが、
横に振動がかかった場合は抵抗が大きく、歪みや音が生じた。
これをゴムに置き換えることで、
歪みや音が起きにくい緩衝材として使えるはずだ、と考えたのである。
その後、大胆にも山本社長は
航空機メーカーの米ボーイングや欧州エアバス、自動車メーカーの独BMW、
アウディなど錚々たる企業の社長に直接売り込みをかけた。
大使館などで社長名を調べてメールやFAXで趣旨を送ったうえで、
社長宛に電話をかける。
すると、国内メーカーだとほとんどが秘書で話が止まってしまうが、
海外メーカーは社長が直々に会って話を聞いてくれるケースが多いという。
社長が技術に詳しくなければ、しかるべき担当者につないでくれる。
そして担当者は、新技術の売り込みに訪れた
見知らぬ外国人の話にも熱心に耳を傾けてくれる。
「海外メーカーの社長は同じ目線で話を聞いてくれる。
すぐに商談につながらなくても、当社の技術が相手の記憶に残ればいい」
と山本社長は言う。
無駄を省いた大胆なアプローチだが、礼儀には細心の注意を払っている。
それだけを肝に銘じていれば、企業規模とは関係なく、
技術を正当に評価してくれる。
長年、海外の企業を相手にしてきた経験から培った“法則”だ。
実際、同社のゴムを使った緩衝材は、
2年前にBMWが開発するレーシングカーで採用された後、
現在は市販車搭載に向けて交渉中だ。
エアバスとは、時期旅客機用に交渉が進んでいる。
国内でも、医療やヘルスケア分野向けの商品が好調だ。
整形外科で使うサポーター用のゴム素材の国内シェアは8割、
海外でも4割のシェアを誇る。
レントゲン撮影時に使うX線を遮蔽するエプロン用の素材もトップシェアだ。
「顧客の声を鵜呑みにするだけでは改善と同じ。
世の中にない素材を作り出す気持ちが大切」と山本社長は強調する。
脱脂粉乳製のボタンから脈々と続く、
世の中に存在しないものへのこだわりこそが、
同社が世界に勝負できる原動力と言えそうだ。
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